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きのこのこのこのこ

思春期が終わらない

琉球八社を巡る①~波上宮~

神社

 

 

 この冬、琉球八社をめぐった。

 

 

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 琉球八社とは、琉球王国時代において「琉球八社の制」により特別の扱いを受けた8つの神社のことである。

 

琉球には臨済宗真言宗の2派の仏教が伝えられ、殊に臨済宗が厚遇されたが、真言宗寺院にも王府から寺禄を給された8公寺が存在した。これら8公寺には神社が併置されていたが、これらの各社は俗に琉球八社と称された*1

 

 沖縄県民の感覚として、神社は遠いものである。神社に行くのは初詣くらい。古事記なんて知らないし、神様の名前も知らない。沖縄の拝所には鳥居があるところもあるけれど、それはどうせ皇民化運動の名残だろうと思っていた。何だか胡散臭い。

 

 そういうことで、私は沖縄に住んでいながらして、琉球八社を全く知らなかったのだ。 それでも沖縄の土地神に興味を持ち、道教に足を突っ込みだしたあたりから状況が変わりだした。

 沖縄の信仰が、おもしろいのだ。

 中国と日本の思想を上手く受容している沖縄の文化。神道もそうやって、上手く沖縄風に受容しているしているとしたら。それってすごくワクワクする。そう思ったことが、琉球八社への関心へつながった。そして、沖縄総鎮守とされる波上宮へ訪れた時、その予感は確信へ変わる。私はどんどん、琉球八社へ引きこまれていった。

 

  波上宮は沖縄総鎮守として、県民から愛されている。波上宮の愛称は「なんみんさん」

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 祀られている神様は以下のとおり。

祭神(三座)

主神 伊弉諾尊イザナミノミコト)

   速玉男命(ハヤタマヲミコト)(左神座)

   事解男命(コトサカヲミコト)(右神座)

 

相殿神 竈神(火神)

    産土大神

    少彦名神(薬祖神)*2

 

  伊弉諾尊古事記日本書紀にも登場する神様であるからして、祀られているのはよく分かる。でも、気になるのは竈神だ。竈神はカッコ書きで火神(ヒヌカン)と書かれているのだ。

 

 

 ヒヌカンは、御嶽と並んで極めて重要視されている沖縄地方の代表的な神である。日本本土にもかまど神は居るらしいが、ここでは「ヒヌカン」と呼ばれているので別物と考えられるだろう。*3*4

 それってすごいと思うのだ。もう大興奮しちゃうくらいすごい。なぜなら、神道に沖縄に根付いていた信仰がミックスされていると考えられるから。しかも、このヒヌカンは中国の民間信仰である竈神からの影響を大きく受けている。ちなみに、中国の竈神は道教とも関わりが深い。つまり、色々混ざりに混ざって訳が分からなくなっているのだ。

 ヒヌカン一つとっても、疑問はいくらでも出てくる。そもそも、窪徳忠著作集4 増補新訂 沖縄の習俗と信仰』において、窪徳忠は「沖縄地方の火神の性格を、中国の竈神と単純には同一視できない」と言っている。沖縄において多くの人は竈の神と火の神は一緒にされがちだが、窪徳忠は「神人たちのあいだでは、両者の区別がはっきりつけられている」とも言う。けれども、波上宮の略記には一緒に書かれている。(カッコ書きだが)それは、どうしてだろう。

 なぜ、波上宮では竈神(火神)を祀っているのだろう。日本本土ではかまど神が神社に祀られることはどれだけあるのだろうか。いや、まずは日本本土のかまど神と沖縄の竈神、ヒヌカン、そして中国の竈神の比較からちゃんと知りたい。とにかく、これはすごくおもしろい。

 

 

 

 おもしろいのは、祀られている神様だけに限ったことではない。ご由緒もおもしろいのだ。

当宮の創始年は不詳であるが、遙か昔の人々は洋々たる海の彼方、海神の国(ニライカナイ)の神々に日々風雨順和にして豊漁と豊穣に恵まれた平穏な生活を祈った。

 その霊応の地、祈りの聖地の一つがこの波の上の崖端であり、ここを聖地、拝所として日々の祈りを捧げたのに始まる。*5

 

 「ニライカナイ」というキーワードが出てきた。ニライカナイとは、遥か遠い東の海の彼方にあるとされる異界のことであり、沖縄の民間伝承でも重要とされる要素なのだ。

 伊弉諾尊を祀って、国旗も掲揚している波上宮だけれども、やっぱりここでも沖縄らしさが止まらない。こりゃあ、おもしろい。「外から皇民化運動で入ってきた日本的なもの」と勝手に決めつけて、何の興味も持たなかったことをひたすら後悔するのみだ。こんな風に独自の発展を遂げる神社ってなかなか無いのではないか?波上宮(ひいては琉球八社)の面白さは、この色々ミックスされているところにあると思う。県外に出てみれば、寺も神社も観光スポットとしてよく足を運ぶけれど、ここまで土着の香りが強いところは、珍しい気がする。

 

因みにwikipediaでは

 神社(じんじゃ・かむやしろ)とは、日本の土着宗教である神道祭祀施設[1]文部科学省の資料では、日本全国に約8万5千の神社がある。登録されていない数万の小神社を含めると、日本各地には10万社を超える神社が存在している。

 

祭祀対象は神道であり、「八百万(やおろず)」と言われるように非常に多彩である。神聖とされた山岳や河川・湖沼などから、日本古来の神に属さない民俗神、実在の人物・伝説上の人物や、陰陽道道教の神、神仏分離を免れた一部の仏教の仏神などの外来の神も含まれる。また稲荷や猿、鯨など動物を祭神とする神社、子孫繁栄の象徴として性器を祀る神社もある。*6

 と神社を定義している。あぁ、神社って奥が深い。素敵すぎる。

 

 

 

さらに言うのなら、

波上宮の御鎮座伝説に『往昔、南風原に崎山の里主なる者があって、毎日釣りをしていたが、ある日、彼は海浜で不思議な"ものを言う石"を得た。以後、彼はこの石に祈って豊漁を得ることが出来た。この石は、光を放つ霊石で彼は大層大切にしていた。

 このことを知った諸神がこの霊石を奪わんとしたが里主は逃れて波上山《現在の波上宮御鎮座地で花城と(はなぐすく)も呼んだ》に至った時に神託(神のお告げ)があった。即ち、「吾は熊野(くまの)権現也(ごんげんなり)この地に社を建てまつれ、然(しか)らば国家を鎮護すべし」と。そこで里主はこのことを王府に奏上し、王府は社殿を建てて篤く祀った』と云う。

 これはビジュル信仰ではないか。*7神社のはじまりはアニミズムとも聞くし、それはある意味で自然なことなのかもしれない。それにしても、知りたいことが増えていくところが、なんたって楽しい!

 

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 波上宮裏の波の上ビーチ。ここで光を放つ石を拾ったのだろうか。

 

 略年表でみた波上宮

正平23年(1368)に頼重法印が当宮の別当寺として護国寺を建て、王の祈願所とする。

と書いてある。これこそ、神仏習合琉球八社の呼び名の由来を思い起こせば気付くことだが、琉球八社真言宗のお寺とすごく関わりが深い。実際、現在も波上宮の隣には護国寺が建っている。言ってしまえばこの波上宮神道琉球の民間信仰+道教+仏教のミックスで成り立っているのだ。もう混ぜすぎじゃね?一つひとつ、その受容の様子をちゃんと調べてみたい。どんな信仰もちゃんと受け止めて、ミックスさせちゃう沖縄の人ってしたたかすぎ!

 これだから、沖縄の神社が好きなのだ。神社が好きなのだ。民俗と宗教が好きなのだ!!

 

 

 そんな波上宮、近年のブームに乗っかって御朱印帳の販売もしている。

 

 

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 この御朱印帳に私は一目惚れした。

 特に表!鮮やかなデザインはもちろんのこと、紅型風であることにぐっと来たのだ。これも珍しいということはもちろんだけれども、今後沖縄県外で寺社に行く際に持っていたいものだと思った。荘厳な寺社の雰囲気の中できっと映えるだろう。それに、自分が生まれ育った沖縄の何かをもっていたい。

 

 私と同じ考えの人は大勢いるのか、この御朱印帳はどうも人気が高いらしい。私自身、ツイッターで入荷の知らせを聞いた翌日には参拝しに行ったくらいである。しかも、明治神宮靖国神社とは違い、お守りと同じところに御朱印帳は売ってない。自ら巫女さんに声をかけなければならないのだ。本当に取り扱っているかどうか、一抹の不安を抱きながら、声をかける瞬間。なんだか、おしゃれな喫茶店の裏メニューみたいだ。

 

 

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 御朱印帳についてばかり熱く語ってしまった。これが波上宮の御朱印。「沖縄総鎮守」の印が素晴らしい。

 

 波上宮の魅力はそれだけではない。文学碑があるのだ。

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 釈迢空こと、折口信夫波上宮を訪れ、詠んだとされる歌。この文学碑と出会ったときの感動は、以前「文学碑巡り」としてブログに書いている。

kinokonoko.hatenadiary.jp

 あの頃は折口信夫の凄さなんて知らなかったけれど、民俗学に漠然とした興味をもつ今なら分かる。この人は有名人ではないか。倫理の教科書で紹介されていたよ。國學院大學附属博物館では、この人の書斎まで再現されていたよ。そんな人が昔、私が訪れているこの波上宮に来ていたなんて、感動だ。

 

 

 とりとめもなくここまで書いてきたけれど、やはり波上宮の魅力は大きい。どこまでも書いていられそうなくらいである。私自身、この波上宮に足を運ぶことで琉球八社の魅力の虜になったのだった。

 その後、幾度と無くあふれてくる疑問のために、神社について書かれた本を手にとった私。神社の建築様式、神仏習合のかたち、いろいろ知った。今はまだ何となく惹かれているだけだけれども、この春にはもう一度訪れたい場所である。今度は鳥居のかたちにも、屋根のかたちにも目を配ってみよう。そう誓った。

 

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 波上宮狛犬は、完全なるシーサーだった。ツッコミたい。

 

 

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 手水の説明板は4ヶ国語対応。外国人観光客が多いためだろうけれど、こうやって信仰がミックスされてばかりの神社にあるから余計に気になる。信仰も、言語も、人も、異なるものに寛大だから、この波上宮が生まれたのかもしれない。

 

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*1:琉球八社 - Wikipedia

*2:波上宮略記より

*3:かまど神 - Wikipedia

*4:窪徳忠窪徳忠著作集4 増補新訂 沖縄の習俗と信仰』(1997)によると、火神を「ヒヌカン」と呼ぶのは那覇市松尾や旧久米村、佐敷、本部などの地域に限られている。しかし、私の体感で言うと皆火神のことを「ヒヌカン」と呼んでいる気がする。

*5:由緒 沖縄総鎮守 波上宮

*6:神社 - Wikipedia

*7:ビジュル信仰 (びじゅるしんこう) - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース