雑記帳

沖縄と民俗と言葉と本と

文学碑巡り第3弾~名護編~

 

 一学期中間テストを終え、私は思った。「とかくこの世は住みづらい」意訳するとテストの結果が散々であり、少し旅に出たいということになる。そういうわけで、今回の文学碑巡り第三弾は、名護まで遠出してきた。しかも一人でである。

 

 

 文学碑巡りとは、各地に点在する文学碑(主に琉歌が刻まれている歌碑の場合が多い)を自らの足で探そうというものだ。その道中では、地元のおじぃ・おばぁとの出会いあり、買い食い、寄り道ありのとても楽しいものだ。昨年の冬に第一弾を決行してからというものの、私はすっかり夢中になっている。しかし、今回はいつもと違う点があった。それは、私一人での決行ということだ。今までは友人が同行してくれたけれど、今回の行き先は「名護」。南部民には誘いづらい。また、この名護という土地も私自身初めてだった。まさに不安だらけの中のスタートなのだ。

 

目次

 

 土地褒めの歌 大兼久節の碑

 名護の大兼久

  馬走らちいしょしや

 舟走らちいしょしや

  わ浦泊

 

 

f:id:kinokonoko11:20140517154602j:plain

 

 

 歌意としては、純粋な土地讃歌である。名護の大兼久は眺めが美しく、馬を走らせても楽しく、名護の湾は船を走らせてもすばらしい所である、といった具合か。「馬はらちいしょしや」の「いしょしや」は楽しい、嬉しい、うきうきするという意味である。

 

 

 名護市中央通りに着いて、真っ先に探した歌碑だ。名護の街はすごい。何が凄いかって、懐かしのアーケード街が残っているのだ。そしてこの歌碑もアーケード街の中央にある。私自身、アーケード街を歩いたのは幼少期以来だ。アニメ『氷菓』に出てきそうなその雰囲気に私はずっと興奮していた。それからもう一つ凄いのは、文学碑が大切にされていることだ。今まで巡ってきた那覇の文学碑は、どこもひっそりと建っていた。山の中にあり、存在をあまり知られていないものもあったくらいだ。それに比べて、今回の文学碑はご丁寧に案内板があった。この段階で私はもう感動!文学碑自体も目立っていた。本当にこの地に根付いて、大切にされている文学碑なのだなと感じた瞬間だ。名護は那覇とくらべて、田舎である。昔ながらの時間が流れている気がする。その辺もやっぱり関係するのだろうか。

 

 

f:id:kinokonoko11:20140517154657j:plain

 

 

 グスク時代、北部一体は今帰仁城跡を構える北山が支配していた。中南部と比べると数では劣るが、名護市内にも三〇あまりの遺跡が残っている。また、明治時代になると国頭の首都にもなった。北部の政治、経済、交通の中心であったと言っても過言ではない。中でも歌に出てくる「大兼久」はそんな名護の中心であった。今となっては馬場など当然残っていないが、名護んちゅの誇りを感じることができよう。この歌碑が街の中心で大切にされていたこととも合わせて、私は是非とも栄えていた頃の名護を見てみたいと思うのだった。

 

 

 少女自慢とお国自慢 浦々深さの碑

  

浦々の深さ

 名護浦の深さ

 名護のみやらびの

  思い深さ

 

 

f:id:kinokonoko11:20140517155600j:plain

 

 何とも分かりやすい歌である。浦とは海岸のことを指している。つまり、「深く美しい海岸はたくさんあるが、名護の湾は特別素晴らしい。しかし、それにもまして、名護の乙女は情が深い」という歌意をもつ。

 

 

 個人的には、名護湾の美しさは理解できる。だがしかし、いきなり名護の乙女の話になるのはどうしてなのか!何とも変態オヤジの香りがする。

 だがしかし、名護んちゅの優しさはこの文学碑捜索中にも感じた。地図を片手に街を歩き回っている私を見かけた人が、声をかけてくれたのだった。しかも一人や二人では無い。行く交う人皆が忙しそうな那覇とは大違いだ。この「浦々の碑」がある城公民館も、結局は地元高校生の案内で辿りつけたのだった。文学碑の場所を知っている高校生って凄い!しかも、困っている人に躊躇なく声をかける高校生って凄い!名護乙女凄い!と私は感動してばかりだった。私自身、地元南部の文学碑案内なら喜んで引き受けたいと思う。

 

 

 さて、この文学碑。城公民館の真向かいにこれまた目立つように建てられている。建立に力を尽くした郷土史家・比嘉宇太郎の言葉を引用して、この文学碑巡り第三弾を締めたい。

 

 「渚にせまるアダンの緑の中から、磯の芦屋の朝食を炊く煙、二すじ三すじほの白く立ち上れば、やがて佳楚の山々は、夕日に映えた。だんじよとよまれる名護の浦和は、絵である、詩である。三キロにわたる長い丁曲のアダン林、浦の乙女たちはこの下で夜な夜な恋をささやいた。あたり静かに、独り小波の声のみさらさらと奏でる。青亀も又、産屋求めて、誰気づくまい叢林の奥に隠れた。かくて、ロマンの夜は更けていく」

 

 

 南部民の私が滅多に行かない名護。その落ち着いた魅力を堪能した一日だった。特にアーケード街の威力は凄い。沖縄にはまだまだ魅力が隠されている。南部だけを見て、沖縄を知った気になっているのは勿体無いと強く思った。

 

因みに冒頭で触れた一学期中間テストだが、今の私はあの頃の私にこう囁く。「大丈夫よ、一学期期末テストは更なる自己最低点を更新するのだから。ふふふ」文学碑巡り第四弾もお楽しみに。*1

 

*1:2014年文芸部部誌 学園祭特別号 掲載