雑記帳

沖縄と民俗と言葉と本と

寒さとバルコニーの話

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 北風が私の頬を打つ。何度もスカートがはためき、私の髪もぐちゃぐちゃになる。恵みを与えてくれるはずの太陽さえ、どこかに隠れてしまった。

 

 今日の天気はそんなだった。

 

 私は冬が嫌いだ。大嫌いだ。寒いからである。寒さは、私のやる気やエネルギーを凍らしてしまう。夏の間、私をわくわくさせていたエネルギーは布団の中でうずくまってしまうのだ。(だから、学年末になると成績が下がるのですよ、お母様)

 

 身を打つような寒さが大嫌いだというのに、私は授業の合間にバルコニーに出て本を読む。私の学校は、海のすぐそば。海抜2メートル。だから、北風がすごい。そして、当たり前のようにそこは寒い。

 

 ひどい寒さのときは、唇が紫になることだってある。今日だって、ページをめくる手がだんだん固まっていく。

 

 クラスメイトは私のことを「バカ」だと言う。

私自身、暖かい教室から出て、わざわざ寒いバルコニーで本を読むだなんて、馬鹿げていると思う。

 でも、私は自分のことを心のなかでバカにしながらも、授業が終わると本を片手にバルコニーへと出る。もう、中毒だ。

 

 バルコニーに出ると、私は空を見上げる。夏のように、力に溢れている空はそこにない。あるのは、雲だけの白い空だ。でも、私はその空が好きだったりする。どうせ、私たちは地球に閉じ込められているのだから、青い空を見上げて、大気圏に閉じ込められていると思うより、白い空の一面にある野暮ったい雲に閉じ込められていると思うほうがまだ許せるのだ。

 

 バルコニーに出てわざわざ本を読むのは、この空を見るためなのか?と考えたことがある。学校というコンクリートのお化けに一日中飲み込まれているのは、息が詰まる。私は呼吸が苦手なのだ。だから、空を見て閉塞感から抜けだそうとしている、そんな考え方もできる。

 でも、少し違う。

 

 私は、バルコニーで寒さに凍えていたのだ。寒さが大嫌いだというのに、寒さを求めている。

 立春を過ぎて、もうすぐ春が来る。

 春が、来てしまう。

 ずっと求めていたはずの春だというのに、春が今、見えないのだ。

 

 だから、もう少しだけ寒さを感じていたい。

 出会いも、別れもない冬の中で本を読んでいたい。

 

 私は、バカだ。水を飲むためにバルコニーへ出た男子が口を揃えて私のことを「変人」と呼ぶ。友達は、半ばあきれたように私を見る。

 

 馬鹿でもいい。変わり者でも、誰にも理解サれなくともいい。ただ私は、バルコニーから離れたくないんだ。

 

編集後記

 卒業して一番惜しいのは、あのバルコニーから離れなければならないことです。