雑記帳

沖縄と民俗と言葉と本と

留学日記 9月14日 順益台湾原住民博物館

 

 台湾大学の留学生向け中国語授業は、来週から。

 金曜日はぶらぶらするために、本科生向けの授業も入れなかったので、今日は全休。その時間で順益台湾原住民博物館に行ってきた。

 

 

 順益台湾原住民博物館は、台湾原住民族に関する民族学博物館。

MRT士林駅からバスを乗り継いで、15分くらい。故宮博物院のすぐ近くにある。

 

 

当館の展示テーマは、台湾原住民族の分布と概観、原住民族が自然と共存してきた生活、各民族の様々な服飾様式、各族の儀礼と信仰が中心となっています (順益台湾原住民博物館 パンフレットより)

  原住民族の博物館って日本にはあまりない。(民俗学を扱う博物館は多いけれど)一番近いのは、大阪の国立民族学博物館みんぱく)だろうか。北海道にはアイヌに関係する博物館があったりするんだろうな。ならば、沖縄は?琉球民族が存在するのか、という問題は側に置いておくとしても、沖縄をテーマにした博物館は沖縄県内にとても多い。6月に実習した沖縄県立博物館は、まさに有史以前から現在に至るまでの沖縄に焦点を当てた博物館だった。沖縄本島のみならず、沖縄全域を含めたシマの自然環境、歴史、民俗、芸術を取り扱う博物館。沖縄と沖縄県民、沖縄を訪れる人達と共に歩いているような博物館だ。そして、その学芸員さんたちの姿勢に強く心を打たれたんだった。こうした博物館と、原住民族博物館の違いは?やっぱり近いところがあるんじゃないか。そして、そこに行くことで私が学ぶものってきっとたくさんありそうだ。そういうことを思いつつ、順益台湾原住民博物館は、台湾留学がはじまる前からずっと気になっていた博物館だった。

 

 そして、かなり面白い、素敵な博物館だった。

 

 この博物館、展示物に対して「その民族では何が美しいとされるのか」というような説明を付けていたことがかなり良かった。その美しさは私の価値観と異なることもあって、美しさが一つの物差しでは決して測れないことを教えてくれる。また、そのように「もの」を通じて彼らの世界観を知ろうとすることは、台湾原住民族を台湾原住民族として知ろうとしていることになるんだと思った。私は、マジョリティーである漢民族(そういっても、出身地の違いは多々ある)に対するマイノリティの台湾原住民族として彼らを考えていたからこそ、その凄さを感じた。

 

 また、展示物の中には美しい刺繍が施された衣服があった。その衣服には白い、プラスチック製のボタンがたくさん縫い付けられていて、私はこれを安っぽいな、無い方が良いな、と思ったのだった。でも、解説ガイドによると、この白いボタンは交換でしか得られないもので、富の象徴になるのだとか。私の日常に溢れているような工業製品である白いボタン、それが無い方が良いって思ったのは、オリエンタリズムを台湾原住民族に押し付けていたからではないか、そんなことを考えた。

 

 もちろん、この博物館に対して「凄い!」という感情だけではない。

 例えば、台湾原住民族に関するあらゆるものを展示していたけれど、彼等の文化を「民族」でくくっていいのだろうか。そういう展示は、ある民族の中でも個人差とか地域差を無視することになるのではないか。(キャプションに採集地域などの情報が書かれてなかったように思う)それから、台湾原住民族の生活に根差していたであろうモノを収集して、博物館展示物にしてしまうことは、文化の収奪につながるのではないか。博物館はどのようにして台湾原住民族に還元しているのだろうか。博物館のチケットは、台湾原住民族に対して割引を行っていたけれど、ほかに取り組みはあるのか、などなど疑問はいくらでも出てきた。

 

 それも含めて得られるものが多い博物館だったように思う。ただ、こうやって博物館で感じたことをまとめてみると、学芸員の勉強も専門の民俗や文化人類学の勉強も、ちゃんとやれてなかったことを反省する。今度来る時はまた違う発見ができるようになっていたい。

 

 

 夕方は中国人留学生との会食。その中の一人が「台北の風景は北京より、東京を連想させる」と言っていたことが印象的だった。私は台北を東京に似ていると思ったことはあまりなく、私の見ている台湾とはまた違う台湾を見ているんだなーって。